SIG-TS SIG Technical Standards
テクニカルスタンダードに関する専門部会

専門職養成課程を持つ高等教育機関では、入学、在学中、学内外の実習、就職と、連続的にまた一貫して合理的配慮の提供を行う必要がある。テクニカルスタンダードの考え方をもとに、専門職養成課程を持つ各高等教育機関において必要な障害学生支援の知識・技術・行動・態度等について検討し、他SIGメンバーや、全国の障害学生支援関係者のコメントを受けて、障害学生支援スタンダードを公表する。

現在のメンバー

  • PHED 西村優紀美
    西村優紀美 Yukimi NISHIMURA

    富山大学保健管理センター客員准教授/前教育・学生支援機構学生支援センター副センター長アクセシビリティ・コミュニケーション支援室長 /(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター発達障害学生就労支援研究委員会委員 専門は自閉スペクトラム症児・者に対するコミュニケーション教育。社会人として悩みながらも活躍している卒業生に会い、話をするのが楽しみです。

  • PHED 舩越高樹
    舩越高樹 Koju FUNAKOSHI

    国立高等専門学校機構本部特命准教授/学生参事補/障害学生支援スーパーバイザー初等教育から高等教育までのほとんどの教育段階での現場経験があり、インクルーシブな教育システムづくりに自ら参画し、取り組んでいます。合理的配慮の内容検討の際の参照基準として、教育の質保証の観点と密接に関わるテクニカルスタンダードの重要性に着目し、SIG-TSに参加しています。

  • PHED 嶋田かをる
    嶋田かをる Kaoru SHIMADA

    熊本保健科学大学客員教授 熊本保健科学大学保健科学部医学検査学科教員として、長年、臨床検査技師教育に携わったのち、学生相談・修学サポートセンターに異動。機能障害がありながら医療職を目指す学生の皆さんに対する支援とともに、現場医療職の皆さんへの障害理解に向けた実践活動を行っています。

  • PHED 小倉正義
    小倉正義 Masayoshi OGURA

    鳴門教育大学大学院学校教育研究科人間教育専攻心理臨床コース臨床心理学領域准教授。 鳴門教育大学発達臨床センター所長/学生なんでも相談室副室長/大学院学校教育研究科准教授。徳島県発達障がい者地域支援マネージャー。専門は発達臨床心理学。公認心理師/臨床心理士として、大学だけでなく地域の発達臨床の現場で広く活動し、研究を展開している。教員養成・心理職養成におけるテクニカル・スタンダードの重要性に着目し、SIG-TSに参加しています。

  • PHED 日下部貴史
    日下部貴史 Takashi KUSAKABE

    富山大学教育・学生支援機構 学生支援センターアクセシビリティ・コミュニケーション支援室 コーディネーター/特別支援教育士 以前は、高校の教師として、様々な障害のある在校生および卒業生の教育活動を行ってきました。現在は、障害のある大学生への修学支援を中心に社会参入を見据えた就職活動支援、卒後フォローアップ支援を担当しています。

  • PHED ピーター・バーニック
    ピーター・バーニック Peter BERNICK

    長崎大学障がい学生支援室助教。米国ハワイ州出身。日本に約30年間在住。臨床ソーシャルワーカー。特技(?)は笑えないダジャレ。欧米の視点を取り入れながら日本で障害にまつわる理解啓発を推進し、真の多様性を重んじる社会の発展に少しでも貢献できたらと思っております。

テクニカルスタンダードに関するQI(Quality Indicator)

  • QI:TS-1“TS”を扱う上での基本姿勢

    • QI:TS-1-0“TS”を扱う上での基本姿勢

      “TS”には、専門職として身に付けなければならない基準が明確に示され、合理的配慮提供のための検討がしやすくなる側面がある。一方で、過剰に適応されることにより、障害のある学生が暗に排除されてしまう欠格条項として運用されてしまうことが懸念されている。そうした状況を招かないために、“TS”を扱う上での基本姿勢をここに示す。

    • QI:TS-1-1“TS”の背景を知っている

      意図:2019年現在、日本の専門職資格認定や専門職養成課程において、“TS”が明示されているわけではない。しかし認証評価システム等の導入に合わせ、資格要件や認定基準として“TS”に近い形で示されるものが出てきている。という社会的背景を押さえている必要がある。

    • QI:TS-1-2“TS”のポジティブな側面を知っている

      意図:特に資格取得を目指す学部・学科・研究科では、単位取得要件や資格要件の明確化・厳格化が進められ、“TS”を満たすための学術的要件と同等の意味合いを持つ基準や評価項目が示されるようになっている。専門職それぞれの専門性が具体的に示されることは、障害学生支援の分野でも、障害のある学生に提供する合理的配慮の内容について、具体的な検討が容易となるポジティブな面があることを押さえる。

    • QI:TS-1-3“TS”のネガティブな側面を知っている

      意図:障害の社会モデルに基づく合理的配慮の考え方が十分に理解されていなかったり、障害による支援ニーズに対してその個別具体性に対する配慮が欠けたりしていると、“TS”が新たな欠格条項(障害等の理由で一律に資格や免許を与えないこと)のような性格を帯びる形で運用されてしまうのではないか、というネガティブな側面に対する危惧も生じ始めていることを認識する。

    • QI:TS-1-4学生の学年進行の各場面に応じ、適切なタイミングで“TS”と絡めた合理的配慮の検討をすることができる

      意図:障害学生支援担当者は、“TS”のポジティブな部分での活用のみが進むように、支援を通じてその有効性を明示し続けると共に、欠格条項のような運用がなされないようにさまざまな機会をとらえて、関係者に働きかける。

    • QI:TS-1-5“TS”に関する修学支援を行う際の留意点を押さえている。

      意図:学生の学年進行により、想定される場面は変わるが、共通して意識しておく留意点はある。例えば、学生が自ら“TS”の内容について確認し、合理的配慮を求めるための意志表明ができるように支援することがセルフアドボカシー強化の観点から望ましい。

    • QI:TS-1-6“TS”を全ての学生にあてはめられる規準として厳格に適用することを優先するあまり、合理的配慮提供の際に必要な個別のニーズに対応する観点を落とさないように留意する。

      意図:“TS”は専門職が専門職足りうる能力等を一般化、抽象化、そして共通化の作業を通じて提示されるものである。それがゆえに、拡大解釈されたり、その専門職に就いていたり、目指したりする者に対して、過剰な適応を求めることにつながる可能性がある。合理的配慮は障害のある学生の支援ニーズの個別性に留意しながら検討される必要があるが、それを損なう方向での運用がなされやすい性質のものであることに留意する。

    よくある間違い

    • 資格要件等の厳格化が強化されている流れのなかで、技術的側面のみに焦点があてられることにより、意図せず障害のある学生への差別が生じてしまうことがある。例示については、1-3を参照のこと。

    • “TS”のポジティブな側面があるにも関わらず、過剰にネガティブにとらえ、専門性に疑義が生じるような合理的配慮の提案をしてしまったり、「そんな基準を達成することなんてできないよ」と基準等と適切に向き合う姿勢を避けたりする。

    • 他に明確な理由もないのに、“TS”をクリアできないだろうという憶測のみを根拠として過剰に振りかざし、適切な合理的配慮の提供を検討することなく、障害のある学生を講義や実習などから排除する。 

    • “TS”で示されている項目をクリアできない学生がいるときに、適切な合理的配慮の提供の検討もせずに、専門性の担保という側面のみを重視し、“TS”を根拠として示し、拡大解釈したり、過剰に適用したりすることにより、障害のある学生を講義や実習などから暗に排除する。

    • 入学前から卒業後まで“TS”について考慮すべ機会は多いにもかかわらず、指導がしにくい場合だけに、“TS”を理由として支援しないという判断を下す。例示については、4-1、4-2、4-3を参照のこと。

    • 学内実習では検討の余地がある場合もあるが、学外実習では検討の余地がなくなりがちで、“TS”を拡大解釈して厳密に対応し、障害のある学生の学習権を毀損する。例示については、5-3を参照のこと。

    • セルフアドボカシーについて意識せずに合理的配慮を決定してしまう。例えば、本人の意向を尊重せずに、大学側の思惑を押し付ける。

    • 修学上の合理的配慮を検討する営みは、セルフアドボカシーのスキルを高める絶好の機会であるにも関わらず、障害学生支援担当者が先回りして安易に代行してしまう。

    • “TS”は、本来専門性を明確にするために定められるもので、障害のある人の存在を意識して策定されるものではない。それにも関わらず拡大解釈をし、過剰に適応することを学生に求める。

    • “TS”を障害のある学生の個別のニーズや本人の意思の尊重を行うことなく、厳格に適用する。

  • QI:TS-2入学時における合理的配慮の内容調整

    • QI:TS-2-0入学時における合理的配慮の内容調整

      高等教育機関における障害のある学生への支援は、中等教育機関までの段階で提供される特別支援教育の枠組みとは異なる。特別支援教育では教育課程のすべての項目を確実に習得することを求めずに、各自の得意な分野で十分に力をつけ、それを生きる糧として職業生活に結び付けられるよう、教育の結果の保証も意識して合理的配慮が提供される。しかし、高等教育機関では教育の質保証の観点から、必修の項目を省略することや、評価基準を下げるなどの調整は許されない。したがって、高等教育機関では機会の保証のための合理的配慮が提供される。この違いを入学希望者や保護者に十分な理解を求める必要があり、アドミッションポリシーとの関係、入学試験、資格要件、養成科目等の高等教育機関特有な教育のあり方と、“TS”の理解が促進されるような支援が必要である。

    • QI:TS-2-1入学前の対応において“TS”を意識できる。

      意図:入学を希望する学部のアドミッションポリシーについて、入学希望者(必要により保護者)と確認し説明する。また、入学前の支援に関する情報が共有できるならば、それをもとに合理的配慮の提供内容を効果的に検討できることを説明する。

    • QI:TS-2-2入学前に在籍する機関の進路指導担当者に適切な情報提供を行う。

      意図:進路指導担当者に十分な情報を提供し、入学希望者が適切な進路選択できるようにする。

    • QI:TS-2-3大学のホームページ等で“TS”に関する情報を含めた支援に関する情報を発信する。

      意図:障害のある入学希望者が、あらゆる学部・学科・研究科を選択できる可能性があることを前提とし、本人が適切な判断をするのに十分な情報を提供する。

    よくある間違い

    • 「あなたにだけに特別なことはできない」、「前例がない」、「人手が足りない」、また、「専門職として求められる能力は自力で発揮できるのが当たり前である」などと“TS”を盾に、入学を暗に拒否する。

    • 障害のある入学希望者が、支援の有無のみを進路決定の判断材料にし、予期不安によって、本来希望する学部・学科・研究科への進学をあきらめてしまう。

    • 障害のある入学希望者が、3つのポリシーや資格に関する要件や資格取得までのプロセスを十分に知らずに進路選択をする。

    • 支援の実例や体制について公開すると、充実した支援を行ってくれる大学だという認識を広く与えることに繋がり、支援ニーズのある入学希望者が他の高等教育機関と比べて過剰に集まってくるという予期不安にとらわれ、情報公開をしないという判断をする。

  • QI:TS-3高等教育機関での“TS”を絡めた修学全般を見通した合理的配慮の内容調整

    • QI:TS-3-0高等教育機関での“TS”を絡めた修学全般を見通した合理的配慮の内容調整

      入学決定後、学生が修学上クリアしなければならない3つのポリシーに示された基準、そして資格取得要件として示されている基準を、障害のある学生との対話を通じて共に確認する。また、必要となる合理的配慮について、本人と教員等の関係者の間で建設的な対話を促し、必要に応じた合理的配慮の内容を提案し、それを実現するために関係者と調整する。

    • QI:TS-3-1入学決定直後や支援ニーズが生じた際に、卒業までに身に付ける専門性に関して“TS”を意識できる

      意図:専門職養成課程では特に、“TS”はある特定の場面のみにおいて意識されるものではない。入学決定直後など修学支援提供の検討初期段階においても、卒業や資格取得までの過程と“TS”を意識しつつ必要となる合理的配慮について提案し、見通しを持たせる。

    • QI:TS-3-2授業開始に当たってそれぞれの科目を履修する際に“TS”を意識できる。

      意図:教育内容・方法、学修成果の評価方法や基準を示すカリキュラムポリシーや、シラバスが示す内容や評価方法や基準について本人と共に確認する。

    • QI:TS-3-3資格取得を目指すにあたって“TS”を意識できる

      意図:卒業時に資格取得を目指す学部・学科・研究科では、資格取得要件として示される内容や基準について本人と共に確認する。

    • QI:TS-3-4抽象的な基準が示された場合にも具体的な対応を行うことができる

      意図:3つのポリシー、シラバスには抽象的な表現が多い。“TS”を絡めて適切な合理的配慮を検討するために、それらに示されている項目を具体化する働きかけを行う。

    よくある間違い

    • 学年進行により出てくる課題に対し、対応がより困難となるような場当たり的な支援を提供する。

    • 実習時や就職活動の際に応用できない合理的配慮のみを提供して、学生の成長を促せない。

    • 障害のある学生が主体的に、自分に必要な配慮とは何かを考えられなかったり、意思の表明を阻害してしまったりするような先回り支援を勝手に提供する。

    • カリキュラムポリシーやディプロマポリシー、そしてシラバスに示されている評価基準を無視して、場当たり的な支援策を提示する。

    • 授業担当者が提供する授業の教育の本質等を確認することなく、勝手に合理的配慮の支援内容を決定する。

    • “TS”を盾に、履修登録を認めない。

    • 学年進行の途中で“TS”を盾に安易に中途退学、転部転科を含む進路選択を促す。

    • 学年進行により資格取得要件を意識する度合いが強まるとはいえ、入学時から意識されることが効果的であるにも関わらず、いたずらに検討を先延ばししたり、意図せず合理的配慮の内容を決定したりする。

    • 「学生がコミュニケーション能力を適切に発揮できるよう配慮する」、「医療従事者としての倫理観を十分身に付ける」など、抽象的なマジックワードをちりばめた合理的配慮内容を決定する。

  • QI:TS-4学内の実験・実習・演習時の合理的配慮の内容調整

    • QI:TS-4-0学内の実験・実習・演習時の合理的配慮の内容調整

      資格取得を目標とする学部・学科・研究科(資格取得を卒業要件としている場合を含む)では、“TS”と照らし合わせながら、実験・実習・演習時の合理的配慮の内容を導き出すことが肝要である。

    • QI:TS-4-1“TS”を絡め学内実習に対する見通しを持つことができる

      意図:学内実習は、障害の有無に関わらず学生にとって、見通しが立てにくい学習状況を生む。そのため“TS”やその中に示されている内容を吟味し、本人と共に必要な支援について考える。

    • QI:TS-4-2“TS”等を満たすための具体的な調整ができる

      意図:実習時に提供される合理的配慮は、講義と比べ“TS”を意識する場面が増える。検討の際に実習時に求められるパフォーマンス、実習機関の環境、条件等を具体化、可視化する必要がある。

    • QI:TS-4-3既存のノウハウや手引書を生かすことができる

      意図:“TS”を満たすための変更・調整は、新規に取り組むべきことばかりではない。実習・実験等においてすでに提供され、工夫されていることの中から準用できるものはないかを確認する。

    よくある間違い

    • 設備面の改修や特殊な器具の準備、そして実習担当者との調整には時間を要するということを理由にし、実習に向けた準備を拒否する。

    • 学外実習の傾向を見通して学内実習に反映させることをせず、場当たり的な対応に終始する。

    • 学年進行により高度化する実習に関して、本人が準備することで対応可能性が高まるにも関わらず、実習担当者を中心とした関係者による見通しを持った助言をしない。

    • 適切な事前的改善措置や環境調整をせずに、本人への“TS”への対応のみを迫ることで、実質的に実習への参加を拒否する。

    • “TS”を満たすことができる合理的配慮として提供される内容は、すべからく新規に検討されるものであると誤解し、検討にむやみに時間をかけると共に、担当者の負担感をいたずらに増す。

  • QI:TS-5学外実習時の合理的配慮の内容調整

    • QI:TS-5-0学外実習時の合理的配慮の内容調整

      資格取得を目標とする学部・学科・研究科等(資格取得を卒業要件としている場合を含む)では、ほとんどの場合学外実習が課せられている。予見可能性が高く、予習や反復学習が可能な学内実習と違い学生は現場での即時対応を求められるため、学内実習ではその兆候が見られなかった学生でも不適応を起こすケースが目立っている。また、学外での実習(臨地実習や教育実習など)における主な指導者は現場の職員になるため、学生の支援ニーズについて高等教育機関と現場職員の間での情報共有と、支援に関する緊密な連携が求められる。それら諸条件を考慮しつつ、“TS”を満たす上での課題をクリアするための合理的配慮を導き出すことが肝要である。

    • QI:TS-5-1責任の所在を明確にすることができる

      意図:学外実習における指導者は実習機関(病院、学校、薬局、工場等)の所属であり、その機関において提供されるサービスも「障害による差別の解消の推進に関する法律」の規程に基づき、障害のある利用者等に対する合理的配慮提供の義務を負う。また、教育活動の一環として実習が行われる場合には、学生を送り出す側の高等教育機関にも合理的配慮提供の責任が生じることを意識することが肝要である。

    • QI:TS-5-2学外実習機関との調整に関する留意点を押さえることができる

      意図:障害による支援ニーズに関する事項の確認、合理的配慮内容の確認には一定の専門性と経験のある者の知見が役立つ。合理的配慮に関する妥当性を担保するためにも障害学生支援担当者が実習機関との調整の場に介入することは、本人の権利擁護の観点からも留意する。

    • QI:TS-5-3学外実習機関の受け入れに対し、“TS”を意識して高等教育機関側の態度を明確に示すことができる

      意図:「本質を変えない」ことと「機会の保障」についての考え方について、理解を共有する必要があることを実習機関に働きかける。

    よくある間違い

    • 責任の主体を明らかにせず、責任を互いに擦り付け合う。

    • 具体的な支援内容について検討せず、ただ、補助者を配置したり、他の学生の支援を受けるなどの対策だけに留めたりという形で、現場の対応にゆだねてしまい、実際に必要な支援を提供しない。

    • 医療系臨地実習における患者や教育実習時における子どもたちの不利益(安全性)を重要視するあまりに、障害のある学生の不利益をどう回避するかということに考えが及ばない。

    • 個別具体的な検討を行わず、予期不安に基づき、安全配慮義務を一律に過剰に適応する。

  • QI:TS-6学外実習時の合理的配慮の内容調整

    • QI:TS-6-0学外実習時の合理的配慮の内容調整

      所定の教育課程を修め、国家試験等もクリアしたのち、または同時並行的に就職活動(医師ならばインターン先の選定)が行われる。資格取得が成ったあとでも実際に職を得るためには、“TS”を満たしながら職務を遂行する上で必要となる条件整備、施設整備等の環境整備を含む合理的配慮の提供が、具体的に提供できるよう事前の調整が必要な場合も想定される。この際も“TS”のネガティブな側面がいたずらに強調され、就職(インターン)希望者に不利益が生じないように留意する必要がある。

    • QI:TS-6-1就職活動等の移行期において“TS”を意識した支援を行うことができる

      意図:就職(インターン)先から特に達成を求められる“TS”の項目のうち、障害によって達成が困難だと思われる項目を見極め、それらに対して求められる合理的配慮の内容について、本人及び就職先の機関に提示する。

    よくある間違い

    • 就職先に仕事内容(職務内容・定義)を事前に十分確認しないまま、障害のある学生が就職することにより、配属先が機械的、自動的に振り分けられてしまい、不適応を招いてしまう。

    • 障害のある学生が特性上、職務執行が難しい仕事については、事前に調整するよう依頼したり、不適応の予防策を講じたりするのが望ましいにもかかわらず、それを行わない。

    • 就職先担当者の負担を過剰に斟酌し、適切な事前の情報共有を怠る。

  • QI:TS-7学外実習時の合理的配慮の内容調整

    • QI:TS-7-0学外実習時の合理的配慮の内容調整

      あらゆる社会においては、基準、要件などが示される場合には、人々に何らかの形で特定の価値観や価値基準を示すことになる。“TS”の策定、運用、適用等については、障害のある人にとって不利益のある状態が惹起されぬよう、全ての人々があらゆる側面で意識し続けなければならない。障害学生支援担当者は高等教育機関をフィールドとしつつ、“TS”の適切なあり方について啓発し続ける立場にあることを、強く意識し行動する必要がある。

      また、すでに策定されている3つのポリシー、“TS”、シラバス、に対しても必要に応じ変更・修正を求めることも重要である。欧米では暗に障害のある学生を差別したり差別を助長するような規定が盛り込まれたりしないように、障害学生支援担当者および専門的知識を有するものが関与することが義務付けられている国がある。

      日本においても学内で新たなポリシー、教育要件、評価要件、そして評価基準等が策定される場合や、それらの変更、修正の場面に障害学生支援の知見を有する者が関与し、策定に関わる者に対して、啓発活動を行う必要がある。

      さらに、高等教育機関の教員および研究者は、専門職養成のための“TS”策定の場に関与する立場にあるものも多い。そのような任にあるものが不当な差別的項目を盛り込むことなく、適切な項目の策定の必要性を十分に意識できるよう、不断の努力がなされる必要がある。

    • QI:TS-7-1学生に対する啓発活動を行う。

      意図:障害の有無にかかわらず全ての学生に対し、“TS”は全てを自力で達成しなければならないものではなく、合理的配慮を受けたうえで達成すればよいものであることの理解啓発を行う。

    • QI:TS-7-2教職員に対する啓発活動を行う

      意図:高等教育機関において、“TS”が拡大解釈され、過剰に適用された結果、学生に対して誤った指導や配慮提供がなされてしまう可能性がある。“TS”のネガティブな側面での運用に警鐘を鳴らし、ポジティブな面での活用が図られるよう理解啓発を促す。

    • QI:TS-7-3既存の学内の諸規定に関する変更・修正を促す

      意図:既存の学内の3つのポリシー、“TS”、シラバス等に暗に障害のある学生に対する差別を生じさせるような表現がないか確認する必要があり、そのような事項が認められた場合には、それに対する変更・修正を促すアクションを取る。

    • QI:TS-7-4新たな学内の諸規定の策定にむけ具体的なアクションを起こす

      意図:学内において“TS”に類する規定等が、策定される機会はしばしば生じる。その際に差別的な項目が盛り込まれないようにするため、助言的立場から適切な関与ができるように努める。

    • QI:TS-7-5職種別の“TS”《その分野の専門職としての根幹的な規定・認定要件》の策定にむけた啓発活動を行う

      意図:高等教育機関の教員は、それぞれの専門分野における“TS”の基準作りにアクセスできる立場にある。その場合において、障害のある学生に対する意識を向けられるように、啓発活動を行う。

    • QI:TS-7-6学生を受け入れる学外機関に対する啓発活動を行う

      意図:学生を受け入れる学外実習機関においても、“TS”が絶対的かつ変更不可なものとして運用される可能性がある。特に欠格事項として運用されるケースも散見されることから、“TS”の適切な活用について、常に意識されるよう啓発活動を行う必要がある。

    • QI:TS-7-7就職先に対する啓発活動を行う

      意図:障害のある学生が“TS”を満たし、資格取得を達成できたとしても、受け入れる職場での理解がなければ、その人たちが学んだことを活かし、専門職として活躍する機会を得ることは難しい。“TS”と合理的配慮の関係への理解、学生がそれまでに獲得してきたセルフアドボカシーのスキルへの理解等を通じ、障害のある学生の進路先として適切な対応がなされるよう啓発活動を行う。

    よくある間違い

    • 障害のある学生が、取得を目指す学位や資格に関連した“TS”を示された時、自らの支援ニーズと照らし合わせ、達成困難であると誤解し、修学や資格取得をあきらめてしまう。

    • 啓発活動が十分になされないことにより、学内外の関係者が“TS”を欠格事項と同等のものとみなして、実習参加への拒否等の不適切な対応を行う。

    • “TS”を欠格事項と同等のものとみなして適用し、合理的配慮の提供を検討しないまま、必修の実習への参加を認めない。その結果として、進路変更を迫る指導を行う。

    • 障害のある学生に対し、実習時に自力でクリアできない課題が想定される場合、実習先に迷惑をかけてしまうということを理由に、実習への参加を拒否する。

    • 既存の“TS”を絶対視し、前例がないことなどを理由にしたり、旧来の慣習等を偏重したりすることで学生が求める変更、調整を拒否する。

    • 新たに“TS”が策定される場面に、障害学生支援担当者が関与できない状況を甘受し、具体的なアクションを起こさない。

    • 専門性の担保を理由に、“TS”策定の場面において、障害のある学生が意識されない。

    • 高等教育機関と、受け入れ先機関との話し合いの場が設定できないことにより、受け入れ機関の判断が最優先になる。

    • 受け入れ先機関での理解啓発が十分でないため、障害のある学生の就職先を確保できなくなる。

    • 就職後に不適応を起こす卒業生がいると、今後の採用に差し障りがあると過剰に懸念することにより、障害のある学生が希望する就職先へのアクセスを認めない。

関連資料

SIG-TSが担当した専門的研修CBI

  • 18年11月2日 『障害学生支援とテクニカルスタンダード』

    医療系、教育系、工学系等の資格取得を目指す学部では、資格取得に必要な本質的要件を示すテクニカルスタンダード(TS)が「教育の質」を保障する観点として挙げられています。支援においては、テクニカルスタンダードの存在が合理的配慮の可能性を拡げるという考え方が採用されるのではないでしょうか。テクニカルスタンダードをめぐる様々な現状と課題について考えてみましょう。 TSとは何か/諸外国におけるTSとその事例…
  • 19年8月1日 『障害学生支援とテクニカルスタンダード ~教員として支援者としてどう向き合うか?~』

    2004(H16)年に義務化された認証評価制度や大学の質保証の問題、さらに資格認定の厳密化などにより、大学等高等教育機関における教育内容の厳格化が進められています。その中でさまざまな要件や基準が示されるようになってきました。欧米の高等教育機関では各種専門職に関連する能力規準としてテクニカルスタンダード(またはコンピテンシースタンダード)が示されており、合理的配慮を提供する際の一定の基準としても活用…

参加大学等高等教育機関の教職員であれば、録画視聴が可能です。

申し込みをすると、CBI研修の録画を限定期間で視聴できます。複数名で視聴される際は、お一人ずつお申込みください。

歴代のメンバー

  • PHED 西村優紀美
    西村優紀美 Yukimi NISHIMURA

    富山大学保健管理センター客員准教授/前教育・学生支援機構学生支援センター副センター長アクセシビリティ・コミュニケーション支援室長 /(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構障害者職業総合センター発達障害学生就労支援研究委員会委員 専門は自閉スペクトラム症児・者に対するコミュニケーション教育。社会人として悩みながらも活躍している卒業生に会い、話をするのが楽しみです。

  • PHED 舩越高樹
    舩越高樹 Koju FUNAKOSHI

    国立高等専門学校機構本部特命准教授/学生参事補/障害学生支援スーパーバイザー初等教育から高等教育までのほとんどの教育段階での現場経験があり、インクルーシブな教育システムづくりに自ら参画し、取り組んでいます。合理的配慮の内容検討の際の参照基準として、教育の質保証の観点と密接に関わるテクニカルスタンダードの重要性に着目し、SIG-TSに参加しています。

  • PHED 嶋田かをる
    嶋田かをる Kaoru SHIMADA

    熊本保健科学大学客員教授 熊本保健科学大学保健科学部医学検査学科教員として、長年、臨床検査技師教育に携わったのち、学生相談・修学サポートセンターに異動。機能障害がありながら医療職を目指す学生の皆さんに対する支援とともに、現場医療職の皆さんへの障害理解に向けた実践活動を行っています。