SIG-DG SIG Documentation & Guidelines
根拠資料とその取扱いに関する専門部会

大学等高等教育が備えておくべき、学生の障害に関する根拠資料の収集やアセスメントの実施と、それらの情報の取扱いに関する学内ガイドライン作成に関わる知識・技術・行動・態度等について検討し、他SIGメンバーや全国の障害学生支援関係者のコメントを受けて、スタンダードを公表する。

現在のメンバー

  • PHED 高橋知音
    高橋知音 Tomone TAKAHASHI

    信州大学学術研究院教育学系教授。専門は教育心理学、臨床心理学。大学生を対象とした読み書きの検査(ReadingandWritingFluencyTask:RaWF)を開発。試験等、読み書きが関わる合理的配慮の根拠資料となり得る、国内では唯一の標準化された読み書きの検査となります。高橋知音・三谷絵音(2022).読み書き困難の支援につなげる大学生の読字・書字アセスメント読字・書字課題RaWFと読み書き支援ニーズ尺度RaWSN.金子書房(検査用紙は千葉テストセンター)

  • PHED 渡邉慶一郎
    渡邉慶一郎 Kei-ichiro WATANABE

    東京大学相談支援研究開発センター教授。1993年から精神科医として働いてきました。現在の仕事は、カウンセリングや精神科診療に結びつく前の段階の方を主な対象とした相談業務(相談支援研究開発センター総合窓口)です。SIG-DGの議論に参加できることを感謝しています。

  • PHED 諏訪絵里子
    諏訪絵里子 Erico SUWA

    目白大学心理学部専任講師。 専門は臨床心理学で、これまで発達障がい支援や子どもの心理療法、異文化カウンセリン グを中心に臨床実践を行ってきました。また、2016年から4年間は大阪大学にて、障がい 学生へのアセスメントを担当していたこともあり、心理アセスメントの開発・活用に関す る研究に取り組んでいます。特に発達障がい・精神障がいに対する心理アセスメントの在 り方について検討しています。

  • PHED 立脇洋介
    立脇洋介 Yosuke TATEWAKI

    九州大学アドミッションセンター准教授 2009年から勤務していた大学入試センターにて、入試における障害学生支援に携わっておりました。当時日本の入試では支援がなかった、発達障害学生への支援を導入するため、諸外国の支援内容や判断基準、エビデンスなどを調査・研究しました。現在は、九州大学にて入試業務に従事しながら、新しいタイプの入試における障害学生支援のあり方などについて研究を行っています。

根拠資料とその取扱いに関するQI(Quality Indicator)

  • QI:DG-1根拠資料とは

    • QI:DG-1-1根拠資料の定義

      根拠資料とは、学生の特性や状態(機能障害を含む)を記述したものであり、客観的な学生理解に資するもので、学生と大学の対話のベースとなるものである。そして、合理的配慮の対象であることの判断、合理的配慮の内容の妥当性の判断のための根拠となる資料となる。

    よくある間違い

    • 診断名や示された機能障害と、求めている配慮の論理的な関係性が記述されていない。

    • 状態像が変化する障害であるにもかかわらず、古い検査結果が含まれている、もしくは根拠書類そのものが古い。

    • 大学の担当者が自身の判断を擁護するような資料を求める(セカンドオピニオンを除く)。

    • 記載した者が有資格者であれば立場によらず中立性が担保されたと判断する。

    • 軽微な調整や変更であっても入学試験と同様のレベルの客観性を根拠資料に求める。

    • 配慮要請行動を抑えることを心配するあまり、根拠資料の客観性の高さを求めない。

    • 学生本人が知らない内容(例えば幼少期に説明された診断名)を含んだ根拠資料を、家族が準備して提出する。

    • 過去の配慮実績が記載されたものを根拠書類(例えば個別の支援計画など)とし、過去にその配慮を受けていたという理由だけで、同じ配慮をする。

  • QI:DG-2根拠資料の内容

    QI:DG-2-1根拠資料には学生の心身の機能の障害(機能障害)の状態について客観性を担保するための情報を含み、提案される配慮との論理的整合性を記載することが求められる。記載内容自体の客観性を高めるために、根拠文書作成の依頼者、文書を作成した者の所属・専門性・資格、主治医や担当者として関わった期間、学校や自宅での様子を根拠とする場合にはその情報源、検査の実施時期、その他の客観性を担保する情報も明示する。

    • QI:DG-2-1-1学生の障害や特性について、専門的・客観的視点から記述されていることが求められる。

      本人や家族の主張だけではなく、専門的視点からの情報が求められる。情報は複数の関係者で共有され、更にその中には障害に関する専門性が高くはない者も含まれることを想定し、論旨が明快で、一般的でない専門用語には説明を加える等、読みやすい文書であることが求められる。

      具体的には以下のような情報が含まれる。

      学生の状態像

      診断名(あるいは医学的所見、ICD-11やDSM-5など診断基準を記載)

      機能障害の存在と程度を客観的に示すもの(検査等の実施日、実施者の資格・所属等の情報を含む)

      根拠資料の作成者の情報(資格、所属等、いつから学生を見ているか)は重要である

      機能障害と求めている配慮(案)の論理的な関連についての説明

      過去の(高校時代の、入試の際の)支援状況や支援内容

      機能障害の状態を把握するための手続き、記述内容、情報を得るプロセスなどが明記されていること

      留意点:修学がそもそも困難な状況が読み取れ場合などは、本人と相談した上で学内の他の部署、他の専門機関等に紹介する

    • QI:DG-2-1-2根拠資料のグレードは、配慮内容や必要な変更の度合い、また教育プログラムが求める厳密さなどにより調整して良い。

      配慮を求めるあらゆる場面で、一律に詳細な根拠資料が必要となるわけではない。たとえば、入学試験ではより客観性の高い資料の提出を求めるが、授業に関して負担や変更の度合いが少ない配慮においては準備に時間やコストがかかる特別な資料を求めないといったことが考えられる。

    よくある間違い

    • 準備中

  • QI:DG-3支援の各フェーズにおける根拠資料の運用ポイント

    QI:DG-3-1根拠資料の取り扱い

    • QI:DG-3-1-1根拠資料の取り扱いに関する原則を大学側は事前に定めておく。

      根拠資料が、いつ、どのように、何の目的で、誰に利用され、配慮の申請から決定までの手順・プロセスのなかでどこに位置づけられるのかを定めることで、関係者が一貫した対応ができるようにする。また、個人情報を保存期間や開示対象であることも含めて適切に管理できるようにする。具体的には以下のような内容が考えられる。

      例)同意書の必要性、根拠資料提出のタイミング、コピーの可否、根拠資料の内容を伝えることができる対象、保管・管理方法

      ※留意点:詳細な検査結果等は、原則として合理的配慮の内容を検討する担当者(メンバー)のみが共有する。情報の共有範囲は、情報を求める際に学生に伝えておく。その範囲を超えて情報を共有する場合は、本人の同意が求められる。それ以外は学内で何処まで共有することができるか、合意があることが求められる

    • QI:DG-3-1-2支援を得るために必要な手続きや根拠資料を予め定め、公開しておく。

      所定の根拠資料の提出が必要なこと、そのために費用や時間がかかること、どこでどのように入手できるのかを学生が知り、必要に応じて準備できるようにする。

    QI:DG-3-2根拠資料の獲得

    • QI:DG-3-2-1支援者は、どのような根拠資料が必要かについて見通しを持ち、その必要性を学生に説明することができる。

      自ら学生支援サービスを利用すること、合理的配慮を受けることは高校までにはないことであることを支援者は理解し、まずはそのしくみを学生が理解できるようにする。その上で、大学生活でどのようなつまずきが想定されるか、どのような支援、配慮があればうまくいくかを考え、それに応じて必要になる根拠資料について、学生が理解できるよう、説明が必要になる。

    • QI:DG-3-2-2根拠資料の獲得に迷う学生に対しては、根拠資料の作成に必要な情報の獲得方法を助言できるようにする。

      根拠資料を得るために、診断や検査が必要となる場合、利用可能な学内、学外のリソースを紹介できるようにする。

    • QI:DG-3-2-3根拠資料の獲得には経済的・時間的コストがかかるので、支援者は学生が負担軽減を求める場合、それが可能な有資格者を学内外で幾つか紹介出来ることが望ましい。

      学内で医師や心理師等がいる場合、根拠資料作成のために必要な診断や検査に精通している等、必要に応じて学生がすぐに利用できるような体制を作る。学内にそれらのリソースがない場合は、地域の医療機関、有資格者等と連携し、大学の状況、根拠資料の作成について理解していただけるよう、連携先を準備しておく。

    • QI:DG-3-2-4学生が根拠資料を提出した場合、障害や特性に関する学生と支援者の理解が同じであることを確認する。共有ができていない場合、学生とのコミュニケーションを通し、理解を深めるよう努める。

      検査結果等が得られていても、検査実施機関で十分な説明がなされていない場合もあることから、根拠資料に記載された内容について学生が理解しているかどうか確認する。記載内容と、学生自身の主観的体験と結びつけ、自己理解が深まるよう働きかける。

      また、支援者の学生理解が不十分な場合があることについても常に意識する。学生の言葉や表面的な行動のみに依存した学生理解は、困りごとの本質を見過ごしたものとなる場合もある。根拠資料に示された客観的情報を、支援者が学生理解をより正確なものにするための手がかりとする。

    QI:DG-3-3根拠資料にもとづく判断

    • QI:DG-3-3-1学生の障害・特性を詳細かつ客観的に理解し、必要な配慮内容を決定するために、根拠資料を適切に活用することができる。

      根拠書類の内容がそのまま配慮内容へと翻訳されるのではなく、記載内容を解釈、検討することが必要である。

    • QI:DG-3-3-2根拠資料にもとづいて判断をする際、資料(診断や検査結果)の内容に関する専門知識のある人材を含むことが望ましい。

      委員会等判断を行う組織において、専門家からの根拠書類を読み取り、配慮へと翻訳していく専門的な能力がある人材をメンバーに含む。学内に専門知識を持った専任の教職員がいない場合は、必要に応じて協力が得られる学外の専門家に依頼する。

    • QI:DG-3-3-3客観的な判断ができるよう、複数人で根拠資料の解釈や整合性の点検をしたり、後で別の人がチェックしたりする体制を構築することが望ましい。必要性に応じて、追加情報を請求することも考えられる。

      特定の個人に判断を任せるのではなく、組織としての決定ができるよう、学内の体制を整える。

    QI:DG-3-4合理的配慮の構成を判断した後

    • QI:DG-3-4-1判断内容を学内の教員に説明する際、支援学生の了承を得た上で、分かりやすく説明することができる。

      判断内容の説明にあたっては、根拠資料の記載内容もふまえ、なぜその配慮が妥当なのかを説明できるようにする。

    • QI:DG-3-4-2根拠資料は合理的配慮の必要性を判断するものなので、配慮内容に関する大学の判断が学生の希望と異なる場合もあり得る。その際に、理由について学生に明確に説明するとともに、提供可能な異なる配慮について対話を重ねつつ、検討することができる。

      なぜ、学生の希望通りの配慮を提供できないのか(機能障害があることが確認できないから、求める配慮と機能障害の論理的説明がつかないから、過重な負担であるから、教育の目的や評価基準に関わるから等)、明確に説明できるようにする。また、希望通りにできないということで終わるのでなく、学生のニーズをふまえながら考えられる代替案について、対話を重ね検討する。

    • QI:DG-3-4-3提供された合理的配慮が適切であったかどうかをモニタリングする

      根拠資料に基づいて配慮の内容を決定すれば終わりということではなく、配慮を提供することで学修にどのように変化したか、確認する。必要があれば、学期の途中でも新たな配慮を検討する。 

    よくある間違い

    • 生の許可無く、診断名を授業担当者に伝えてしまう。

    • 場合によって求められる根拠資料が異なる(1の2-2参照)にもかかわらず、どのような根拠資料が必要なのかを学生に説明できない。大学で合理的配慮を受けるために必要な手続きを公開していなかったために、すぐに希望通りの配慮が受けられると誤解を与えてしまう。

    • 必要な手続きを公開してはいるが、その情報に簡単にアクセスすることが出来ない。

    • 必要な書類が全て準備出来ないことを理由に、大学が合理的配慮の申請自体を拒む。

    • 合理的配慮の検討が必要と思われる学生がいても、本人からの申請が無い限り一切働きかけをしない。

    • 医療機関を受診するように助言するが、具体的な受診先について選択肢を紹介することができない。学生は事前に準備をしていたものの、医療機関で根拠書類を獲得するのに長い時間を要し、必要な時に支援が受けられない。

    • 学生の負担を考えて、個人的に便宜を図り検査を行う。

    • 検査を実施可能な有資格者がいるにも関わらず、すべての検査を学外で実施するよう求める。

    • 根拠資料に心理検査が必要と助言されたが、学内で実施出来ないのは大学の事情なのだからコストは大学が負担する。

    • 学生の語りのみから学生のことを理解しようとした結果、学生自身が認識できていなかった問題の本質を見逃し、効果的な支援ができない。

    • 学生が希望した配慮が認められない場合に、その理由を説明できず、紛争となる。

関連資料

SIG-DGが担当した専門的研修CBI

参加大学等高等教育機関の教職員であれば、録画視聴が可能です。

申し込みをすると、CBI研修の録画を限定期間で視聴できます。複数名で視聴される際は、お一人ずつお申込みください。

 

歴代のメンバー

  • PHED 高橋知音
    高橋知音 Tomone TAKAHASHI

    信州大学学術研究院教育学系教授。専門は教育心理学、臨床心理学。大学生を対象とした読み書きの検査(ReadingandWritingFluencyTask:RaWF)を開発。試験等、読み書きが関わる合理的配慮の根拠資料となり得る、国内では唯一の標準化された読み書きの検査となります。高橋知音・三谷絵音(2022).読み書き困難の支援につなげる大学生の読字・書字アセスメント読字・書字課題RaWFと読み書き支援ニーズ尺度RaWSN.金子書房(検査用紙は千葉テストセンター)

  • PHED 渡辺慶一郎
    渡辺慶一郎 Kei-ichiro WATANABE

    東京大学相談支援研究開発センター教授。1993年から精神科医として働いてきました。現在の仕事は、カウンセリングや精神科診療に結びつく前の段階の方を主な対象とした相談業務(相談支援研究開発センター総合窓口)です。SIG-DGの議論に参加できることを感謝しています。

  • PHED 諏訪絵里子
    諏訪絵里子 Erico SUWA

    目白大学心理学部専任講師。 専門は臨床心理学で、これまで発達障がい支援や子どもの心理療法、異文化カウンセリン グを中心に臨床実践を行ってきました。また、2016年から4年間は大阪大学にて、障がい 学生へのアセスメントを担当していたこともあり、心理アセスメントの開発・活用に関す る研究に取り組んでいます。特に発達障がい・精神障がいに対する心理アセスメントの在 り方について検討しています。

  • PHED 立脇洋介
    立脇洋介 Yosuke TATEWAKI

    九州大学アドミッションセンター准教授 2009年から勤務していた大学入試センターにて、入試における障害学生支援に携わっておりました。当時日本の入試では支援がなかった、発達障害学生への支援を導入するため、諸外国の支援内容や判断基準、エビデンスなどを調査・研究しました。現在は、九州大学にて入試業務に従事しながら、新しいタイプの入試における障害学生支援のあり方などについて研究を行っています。