障害学生支援スタンダード

障害学生支援をすすめるうえで、高等教育機関が準備すべき障害学生支援の体制や人材、そして専門性を、『障害学生支援スタンダード』としてまとめました。

『障害学生支援スタンダード』の目的

障害のある大学生がどの高等教育機関でも質の高い配慮・支援が受けられることを目指して、「大学等において備えるべき支援体制や人材、そして障害学生支援に関わる教職員が持っているべき専門的知識・技術とは何なのか」を示すため、『障害学生支援のスタンダード』を策定しています。

■策定の経緯

「障害学生支援スタンダード集」は、現在8つの領域からできています。各領域に含まれる項目は、SIG(テーマ別専門部会)のメンバーによって策定され、更新されています。またPHEDの参加校・参加企業・参加団体(障害のある大学生・大学院生本人を含む)からのコメントを受けて、内容に反映させています。

■構成

8領域の専門性

8つの領域の各スタンダードには、障害学生支援担当部署(あるいは担当者)が備えるべき知識・技術・態度について記述されています。これらの項目は「スタンダード」であり、必ずしも全てがなくてはならないというものではありません。しかし、できる限りこれらの項目を満たすような専門性のある人材を確保し配置することが、障害のある学生に適切な配慮・支援を提供するためには強く期待されます。障害学生支援を担当する教職員は、これらの専門性を身に付けられるよう、研修や研鑽を積むことが期待されます。

組織的整備への活用

障害学生支援の体制整備が徐々に進んできたとはいえ、このような幅広い領域にわたる専門性を持つ人材は現状のところ多くいるわけではありません。そこで高等教育機関には、個々の領域を得意とする複数の人員が連携して、組織的に学内全体の障害学生支援の質を向上させることが期待されます。この「障害学生支援スタンダード」の領域や各項目は、各大学等における障害学生支援体制の整備状況・達成状況を多角的・客観的に把握する指標となります。またそういう点では、各校での自己点検評価の材料として用いることも可能になります。

FD/SD研修への活用

大学等によっては、立ち上げて間もない障害学生支援担当部署や、未だ経験豊富とは言えない担当者らが日々模索しながら、学生の配慮や支援のコーディネートを行っている現場もあることでしょう。そういった初学者の担当者には、この「障害学生支援スタンダード」を基本的知識・専門的技術を学ぶための教科書のように使用していただくことができると思います。スタンダードの項目は、全国の先進的な取り組みを行う機関や実践家のベストプラクティス(=よい実践)を集約したものでもあるので、各項目の内容を丁寧に読み、理解し、日々の実践につなげていただくことができれば幸いです。


『障害学生支援スタンダード』の使い方

どなたでもご覧いただけます。

■ 障害学生支援の担当者に

支援担当部署にとって、このスタンダードの項目は、自らの職務定義となるものとも言えます。障害学生に質の高い配慮・支援を提供するために、何を知っておく必要があるのか、どう行動するのか、何を判断基準にするのか、を知るうえで重要な情報が盛り込まれています。また、大学組織全体において不足している専門性やリソースを点検し、必要なものを準備するために用意すべき費用等を検討する際にも、これらのスタンダード項目が活用できます。

■ 障害のある学生に

修学上あるいは学生生活上の合理的配慮に関する大学と障害のある学生との対話は、障害のある学生ご自身がどのようなことを求め、何を達成したいと考えるのかを、大学の担当部署・担当者に表明することから始まります。このスタンダードにある項目を現在の全ての大学が満たしているわけではありませんが、障害学生の皆様には、このような水準の学生支援サービスをベストプラクティス(=よい実践)としてすでに多くの大学が目指し、取り組もうとしていることを知っていただきたいと思います。そのうえで、ご自身に必要な配慮の内容をどう伝え、どこまで求めるのかという選択において、参考にしていただけると幸いです。

■ 高等教育機関の運営本部に

各機関における、障害学生への差別防止と適切な合理的配慮提供の土台となる組織的な体制整備状況の自己点検の材料としていただきくことができます。また、スタンダードの各項目は、学内の障害学生支援の質を高めるために、障害学生支援担当部署の人材構成を考えたり、担当者を新たに採用する際の参考になるでしょう。さらに学内でのFD/SD研修テーマ選出の際にも役立ちます。

■ 使い方

以下から各領域のQI(質の指標)をご確認ください。「このQIを学ぶ」をクリックすると、リンク先から詳しい内容を学ぶことができます。

また、スタンダードに関連する資料やQIを策定してきた専門的部会(SIG)のメンバーが担当してきた専門的研修(CBI)の録画も、QIのページ内から見ることができます。CBIの録画は、それぞれのスタンダードの主要な項目に即した内容となっています。スタンダードを読み、CBIの録画で取り扱ったテーマや実践事例の背景にある、根拠や専門性についても理解を深めていただきたいと思います。

  • 障害学生支援スタンダードは、SIGのメンバーおよびPHED事務局によって作成されたものであって、著作権はSIGおよびPHED事務局にあります。ルールを守ってご利用いただけますよう、よろしくお願いいたします。

障害学生支援スタンダード

  • アクセシビリティ(ACCESS)

    QI:ACCESS-1基本的なアクセスの保障

    • QI:ACCESS-1-0基本的なアクセスの保障

    • QI:ACCESS-1-1障害のない学生が一般的な方法でアクセスでき、大学等が学生に対して提供する全ての教育やサービスにおいて、障害のある学生のアクセシビリティを検討することができる

    • QI:ACCESS-1-2アクセスを保障するための複数の方法について、学生のニーズ、障害特性の考慮、アクセスを保障しうる品質や安全の確保、コストおよび大学等に係る負担の程度を勘案・提示の上、複数の方法を提案できる

    • QI:ACCESS-1-3学生のアクセスを最大限に保障できるが既存の資源では不足する、あるいは慣行として行われていない方法がある場合に、学内外の新たな人的・金銭的・物理的資源を積極的に開拓することができる

    よくある間違い

    • 準備中

  • 支援技術(AT)

    QI:AT-1支援技術の役割を理解できる

    • QI:AT-1-1ICFの考え方を理解している

    • QI:AT-1-2多様な機能障害と諸活動における障害を理解している

    よくある間違い

    • 支援技術の対象者は、身体障害(肢体不自由、視覚、聴覚)のある学生であると思い込んでいる。

    • 障害学生支援に関わる者の間で支援技術の必要性が共有されていない。そのため、学生の支援計画の項目に入っておらず、支援機器の導入・活用は、別に検討されている。

    • 直面する問題を全て支援機器で解決しようをする。あるいは、できるだけ支援機器を利用しなくてもできるようにすることを目指し、本人の頑張りを求める。

  • キャンパスソーシャルワーク(CSW)

    QI:CSW-0はじめに

    • QI:CSW-0-0大学における障害学生支援は、断片的な情報による短期的な問題解決にとどまるものではなく、より総合的且つ中長期的なプロセスを意識した対応が必要である。また、障害学生支援部署やその担当者においては、全てのプロセスを通じて、学生との対話がもっとも重要であり、学生自身の自己決定を尊重するという態度が必要である。障害学生支援は、大学における権利保障の取り組みであると同時に、それそのものがエンパワメントの象徴であると考えるべきである。また、様々なレベルの環境的要因を的確に把握して、有効に連携したり、既存の資源では足りない部分を創出したりすることも重要である。キャンパスソーシャルワーク(以下CSW)においても「ソーシャルワーク(以下SW)とは何か」という知識や方法論ではなく、「SWによって何ができるか」という意識をもって学生・組織と関わることを求めたい。

    よくある間違い

    • 準備中

  • キャリア移行(CT)

    QI:CT-1就労移行に共通した心構えにおけるスタンダード

    • QI:CT-1-0就労移行に共通した心構えにおけるスタンダード

    • QI:CT-1-1卒後の進路に向けての本人の主体性を何よりも重視する

    • QI:CT-1-2個人情報の保護を遵守する

    よくある間違い

    • 障害学生には、本人の意思に関係なく、特例子会社などの障害者雇用のために用意された場所だけを紹介し、他については勧めない。

    • 大学の就職率を高めるために、障害学生本人が卒後すぐの就職以外の道を建設的に考えていた場合もそれを否定する。

    • 本人の承諾や確認を得ていない状況で、候補となる企業やその関係者に、特定の障害学生の診断や障害についての状況を開示する。

  • 根拠資料とその取扱い(DG)

    QI:DG-1根拠資料とは

    • QI:DG-1-1根拠資料の定義

    よくある間違い

    • 診断名や示された機能障害と、求めている配慮の論理的な関係性が記述されていない。

    • 状態像が変化する障害であるにもかかわらず、古い検査結果が含まれている、もしくは根拠書類そのものが古い。

    • 大学の担当者が自身の判断を擁護するような資料を求める(セカンドオピニオンを除く)。

    • 記載した者が有資格者であれば立場によらず中立性が担保されたと判断する。

    • 軽微な調整や変更であっても入学試験と同様のレベルの客観性を根拠資料に求める。

    • 配慮要請行動を抑えることを心配するあまり、根拠資料の客観性の高さを求めない。

    • 学生本人が知らない内容(例えば幼少期に説明された診断名)を含んだ根拠資料を、家族が準備して提出する。

    • 過去の配慮実績が記載されたものを根拠書類(例えば個別の支援計画など)とし、過去にその配慮を受けていたという理由だけで、同じ配慮をする。

  • 災害等の緊急時対応(EP)

    QI:EP-1災害等緊急対応に必要不可欠な情報を得る

    • QI:EP-1-1自分の大学においてどのような災害が想定されうるかを把握する

    • QI:EP-1-2災害発生時における学内外の適切な情報入手先とその方法を確認しておく

    • QI:EP-1-3自分の大学の災害時避難計画や防災計画、業務継続計画(BCP:BusinessContinuityPlan)を知っておく

    • QI:EP-1-4学内の防災対策組織に、障害学生支援担当者が含まれること

    • QI:EP-1-5防災対策や災害発生時における地域資源の利用方法や協働について考えておく

    よくある間違い

    • 準備中

  • 法の理解(LAW)

    QI:LAW-1教職員は、不当な差別的取扱いとは何かを正確に理解する必要がある。

    • QI:LAW-1-1教職員は、不当な差別的取扱いとは何かを正確に理解する必要がある。

    よくある間違い

    • 教職員は、障害学生との対話をせずに、独自の判断で「学生のため」という観点から配慮を提供すべきではない。

    • 教職員は、一般的・抽象的に「安全のため」という観点から、学生の求める配慮を否定すべきではない。

    • 教職員は、一般的・抽象的に、学生の求める配慮が入学・教育・卒業等の本質部分を変更すると判断してはならず、ディプロマ・カリキュラム・アドミッションの各ポリシーを具体的・継続的に見直していく必要がある(→SIG-TSとの関連)。

    • 教職員は、合理的配慮の提供プロセスにおいて、学生のプライバシーを侵害したり、ハラスメントが生じたりしないように注意をする必要がある。

    • 教職員は、保護者とのみ対話をして、障害学生とは対話をせず、その学生の意向を尊重しない、という事態を招いてはならない。

    • 教職員は、学部・学科・教員の判断を優先することにより、法律の求める義務に違反しないように注意をする必要がある。

    • 教職員は、友人関係の中で私的な配慮が障害学生に提供されている場合に、それを(機能している限りにおいて)尊重しつつも、法律の求める大学の義務が免除されるわけではないことに注意する必要がある。

    • 教職員は、就職先等への配慮情報の引き継ぎなど、大学の本来業務に付随するか否かが明確ではないと思われる場合であっても、障害学生本人の意向を最大限に尊重しつつ、就職先での効果的な配慮に対して無関心であるべきではない(→SIG-ETとの関連)。

    • 教職員は、ある配慮が過重負担を課したり本来業務に付随しなかったりしても、なんら配慮を提供せずに終わるのではなく、障害学生本人の意向を最大限に尊重しつつ、他の非過重な配慮の可能性を探ったり(→SIG-Accessとの関連)、地域資源との連携を探ったりする必要がある(→SIG-CSWとの関連)。

    • 教職員は、障害学生支援のルール作りと体制整備を進める必要があるが、仮にそれが未整備の段階であっても、それを理由に合理的配慮等の支援を断ってはならない。

    関連資料

  • テクニカルスタンダード(TS)

    QI:TS-1“TS”を扱う上での基本姿勢

    • QI:TS-1-0“TS”を扱う上での基本姿勢

    • QI:TS-1-1“TS”の背景を知っている

    • QI:TS-1-2“TS”のポジティブな側面を知っている

    • QI:TS-1-3“TS”のネガティブな側面を知っている

    • QI:TS-1-4学生の学年進行の各場面に応じ、適切なタイミングで“TS”と絡めた合理的配慮の検討をすることができる

    • QI:TS-1-5“TS”に関する修学支援を行う際の留意点を押さえている。

    • QI:TS-1-6“TS”を全ての学生にあてはめられる規準として厳格に適用することを優先するあまり、合理的配慮提供の際に必要な個別のニーズに対応する観点を落とさないように留意する。

    よくある間違い

    • 資格要件等の厳格化が強化されている流れのなかで、技術的側面のみに焦点があてられることにより、意図せず障害のある学生への差別が生じてしまうことがある。例示については、1-3を参照のこと。

    • “TS”のポジティブな側面があるにも関わらず、過剰にネガティブにとらえ、専門性に疑義が生じるような合理的配慮の提案をしてしまったり、「そんな基準を達成することなんてできないよ」と基準等と適切に向き合う姿勢を避けたりする。

    • 他に明確な理由もないのに、“TS”をクリアできないだろうという憶測のみを根拠として過剰に振りかざし、適切な合理的配慮の提供を検討することなく、障害のある学生を講義や実習などから排除する。 

    • “TS”で示されている項目をクリアできない学生がいるときに、適切な合理的配慮の提供の検討もせずに、専門性の担保という側面のみを重視し、“TS”を根拠として示し、拡大解釈したり、過剰に適用したりすることにより、障害のある学生を講義や実習などから暗に排除する。

    • 入学前から卒業後まで“TS”について考慮すべ機会は多いにもかかわらず、指導がしにくい場合だけに、“TS”を理由として支援しないという判断を下す。例示については、4-1、4-2、4-3を参照のこと。

    • 学内実習では検討の余地がある場合もあるが、学外実習では検討の余地がなくなりがちで、“TS”を拡大解釈して厳密に対応し、障害のある学生の学習権を毀損する。例示については、5-3を参照のこと。

    • セルフアドボカシーについて意識せずに合理的配慮を決定してしまう。例えば、本人の意向を尊重せずに、大学側の思惑を押し付ける。

    • 修学上の合理的配慮を検討する営みは、セルフアドボカシーのスキルを高める絶好の機会であるにも関わらず、障害学生支援担当者が先回りして安易に代行してしまう。

    • “TS”は、本来専門性を明確にするために定められるもので、障害のある人の存在を意識して策定されるものではない。それにも関わらず拡大解釈をし、過剰に適応することを学生に求める。

    • “TS”を障害のある学生の個別のニーズや本人の意思の尊重を行うことなく、厳格に適用する。

  
  

今後の発展について

現在は8領域のスタンダードですが、これらのテーマというのは時代や社会的背景によっても変化するものです。その時々に必要な情報を提供できるように、各SIGではこのスタンダードのブラッシュアップが継続的に行われます。また、AHEAD JAPANなどの関連団体等とともに、これらのスタンダードの活用方法について引き続き検討されます。