STANDARD 7 インターンシップやキャリア移行に係る支援の理解
by SIG-CT
7-1 就労移行に共通した心構えを持つ
障害学生支援担当部署およびその担当者は、進路に関する本人の意思の尊重と、個人情報保護の遵守を、障害学生のキャリア移行支援の全ての場面で重視する。また、キャリア移行の支援に関連する情報を積極的に収集する。
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7-1-1卒業後の進路に関する本人の主体性を何よりも重視する
[意図]
選択肢や可能性についての情報提供は必要だが、本人の進路について過度な方向づけを行なっていないかを常に振り返る必要がある。障害者向けとされる画一的な就労支援に陥ってはならない。
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7-1-2個人情報の保護を遵守する
[意図]
職業への移行支援においては、学内の教職員だけではなく、企業や就労移行支援組織など、学外の関係者の関わりも大きくなるほか、移行時には本人が企業等に対して適切に情報を開示できるように助言も必要となる。そのため、個人情報保護の徹底の必要性が高まる。
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7-1-3キャリア移行に関する情報を積極的に収集する
[意図]
障害者のキャリアを取り巻く社会情勢や関連法及び制度等は日々変化するため、その時点での最新の情報や、各地域での取り組み等について情報を収集する。
よくある間違い
- 障害学生には、本人の意思に関係なく、特例子会社などの障害者雇用のために用意された場所だけを紹介し、他については勧めない。
- 大学の就職率を高めるために、障害学生本人が卒後すぐの就職以外の道を建設的に考えていた場合もそれを否定する。
- 本人の承諾や確認を得ていない状況で、候補となる企業やその関係者に、特定の障害学生の診断や障害についての状況を開示する。
7-2 職業準備性を身につけられるよう働きかける
障害学生支援担当部署およびその担当者は、卒業後の就労に向けて、個々の障害学生に必要となる職業準備性を身につけられるよう、働きかけを行う。
職業準備性には、障害に限定されない一般的な職業準備性(職業上の自分の強みの把握、自らの専門性を身につけ、他者にそれを説明する力をつける等)のほか、障害に関連して必要となる職業準備性(自己の障害特性の理解、必要な環境調整、相談する力と態度、セルフ・アドボカシー等)が含まれる。
職業準備性を整えるための働きかけは、主として障害学生との日々のコミュニケーションや相談、研修、支援の中で行う。
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7-2-1自己理解を深めるよう働きかける
[意図]
自己理解の観点としては、障害学生が自分の強みは何かを理解した上で、体や心の調子の変化にどう向き合うか(疾病理解等)、自分の苦手なことを自ら把握するにはどうするか、どのような環境調整があれば力を最大限に発揮することができるか等が含まれる。
自己理解を深める働きかけとしては、日々の相談における肯定的な助言や、実際に他者との交流等を通じて自己理解を深めることを経験できる機会の創出を行う。
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7-2-2自分に合った環境調整を知ることができるよう支援する
[意図]
自分に合った環境調整としてどのようなことが必要か、また、自分自身がその環境調整の必要性や適当性について納得できるかどうかを、障害学生本人が経験を通じて知る機会を作る必要がある。
また、何らかの環境調整のニーズがあるという自己理解のみにとどまらず、その具体的な実施・調整方法や関連する情報を、本人が理解できるよう十分に説明しておくことも、卒後の生活につなげていくために重要である。
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7-2-3第三者に相談する力や態度を身につけられるよう働きかける
[意図]
卒後の職業生活を支えるための準備性として、学内の相談支援以外にも、学外の福祉制度や相談支援等を利用する力や態度は重要である。「信頼の置ける第三者」や「障害に関するアドボケイト(権利擁護に関わる団体や人々)」、「公的な支援サービス」へ相談することを、本人が効果的かつ適切に選択できるように支援することは重要である。
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7-2-4セルフ・アドボカシーを身につけられるよう支援する
[意図]
職業生活に移行する上で、セルフ・アドボカシー ※1 は重要な力である。自分自身に必要な環境調整やその優先順位を、管理職等の適切な相手に自分から伝えられるよう、日々の相談の中で支援を行う。具体的には、障害のある当事者の視点に立ったアドボケイトや、すでに就労している先輩によるロールモデルとの交流の機会をつくる、また、そうした人々からのピア・サポートが得られる機会をつくること等を重視する。
- ※1:セルフ・アドボカシー。障害の社会モデルの観点に立って、自分の状態を自分で説明できる力と、自分が必要とする支援を他者に求められる力の2つからなる自己権利擁護力のこと。
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7-2-5働く体験を通じて労働について学ぶ機会を作る
[意図]
障害の有無に関わらず、企業等で実際に役割を持って労働する経験を通じて、職業に関する準備性を高めることは、学生の準備性を高める上で重要なことである。
しかしその一方で、障害学生を受け入れるアルバイトやインターンシップ等の労働の機会は多いとは言えない現状がある。そのため、インターンシップ等の機会で、企業と障害学生が合理的配慮に関する建設的対話を行うことを支援する必要がある。
また、学内でも、障害学生が合理的配慮を得て働くことを通じ、労働について学ぶ機会を設けることも重要である。
よくある間違い
- 特定の種別の障害のある学生に対して、その障害種別のステレオタイプ的に「できないこと」や「困難なこと」とされていることを本人に伝え、本人がステレオタイプを自分自身に同一化するような働きかけを行う。その結果、個々人の状況や個性の違いを軽視する。
- 「障害学生本人の負担にならないように」と、環境調整等の合理的配慮を、本人の同席のない、またはインフォームド・コンセントと意思確認のない、水面下で進める。その結果、同じような合理的配慮を卒業後に得るためにどこから交渉を始めたらよいのかを、障害学生本人にはまったくわからない形にしてしまう。
- 障害学生に、「社会人はこうあるべき」という支援者の価値観を押し付けてしまう。その結果、本人が自分に合った働き方を選ぶことを阻んでしまう。
- セルフ・アドボカシーは一部の能力の高い障害者だけができることだと考え、そうでないと思えた障害学生に対しては、本人の意思を聞かず先回りした関わりをする。
- 変更や調整による周りへの影響を考慮するように本人に強いて、本人の希望を表明することを思いとどまらせる。その結果、セルフ・アドボカシーの経験やスキルが育つことを阻害する。
- インターンシップ等の情報提供はするが、それだけで、働く経験を生み出すことは自分の支援の職務には関係のないことだと考え、行わない。
7-3 障害学生へキャリア移行に関する情報提供を行う
障害学生本人やキャリア支援担当の学内の関係者は、障害学生が卒業後に職を得て活躍するための情報を、十分に得られてないことがある。障害学生支援担当部署およびその担当者は、障害学生のキャリア移行に関連する情報を収集し、本人及び関係者に情報提供を行う。
また、本人及びキャリア支援担当が自発的な情報収集を行えるよう支援する。
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7-3-1労働に関する法や制度を知り、本人に情報提供を行う
[意図]
労働者の権利に関する知識として、労働に関する法律(例:労働基準法、労働安全衛生法など)や社会保障についての基礎知識を障害学生が得られるよう支援する。その他、障害と雇用に関連した法制度の知識として、改正障害者雇用促進法や障害者総合支援法による、労働に関する障害者の権利保障の仕組みと、これらの法に基づいて提供されている、本人が利用できる就労への移行を支援する各種の障害福祉サービス(例:障害者就業・生活支援センターの相談支援、就労移行支援事業、就労継続支援事業等の就労系障害福祉サービスなど)について、体系的な知識を得ておき、情報提供を本人に行う。
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7-3-2障害学生には、その他の学生と比較して多様な就労の選択肢があることを、本人に情報提供する
[意図]
障害学生には、その他の学生と異なる、多様な就労の選択肢や福祉的支援が存在する。しかしながら、障害学生自身は、そうした選択肢や支援があることを知らないケースも多いため、障害学生支援担当部署は、キャリア支援担当部署と協力して、障害学生に十分な情報提供(多様な就労の選択肢の例や、それぞれのメリット・デメリット、障害者手帳の取得、地域及び企業等における障害のある労働者への支援の違いなど)を行う。また、政府から企業に対して、障害者の職場介助者等の公的助成制度(例:厚生労働省「障害者介助等助成金」)があることを障害学生本人が知ることも、今後の自らの働き方を本人が描く上で必要な情報となるため、合わせて情報提供を行う。
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7-3-3障害学生が公的制度によるキャリア移行の支援を主体的に利用できるよう支援する
[意図]
障害学生本人が就労系障害福祉サービス等の賢い利用者となるために、サービス内容を把握した上で、主体的に利用できるように支援する。 具体的には、障害学生は、就職する前の段階で、企業等への就労を支援する各種の福祉サービス(例:政府の障害者就労移行支援事業、各自治体に設置された障害者就業・生活支援センターのサービス、個々の自治体が独自に提供する障害者の就労支援サービス等)を利用する場合があるため、それらの情報を提供する。なお、これらの就労支援サービスの支援内容に関する知識に加えて、個々の事業者によってサービスの内容や質が大きく異なることに留意※2する。
- 2:個々の就労支援に携わる事業者によって、得意としている障害種別・業種や職種は異なる。また、原則として、障害学生は、条件を満たせば大学在学中にも就労移行支援事業を利用することができる。その際、利用の可否の判断は、個別の障害学生の修学状況によって異なるため、自治体との協議が必要となる。
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7-3-4インターンシップ等の情報を収集する、または開拓する
[意図]
障害学生を対象としたインターンシップ等について、最新情報の収集を定期的に行う。また、インターンシップ等の事例創出に努める。企業等によるオープン・カンパニーやキャリア教育だけではなく、働く体験を通じた学びを得ることができるインターンシップの実施を企業側に働きかける。他、自治体や企業・団体等が独自に行うことがある、障害学生の就職支援の取り組みについても情報を収集する。
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7-3-5企業等の独自の取り組みについて情報を収集する
[意図]
近年、障害や病気を含めた多様な背景のある人々にとっても働きやすい、ユニバーサルな働き方を自社内に実現しようとチャレンジしている企業がある。他、障害学生の採用に特化し、かつ、障害学生の強みを活かした独自の採用プログラムを行う企業もある。このように、大学を卒業した障害学生のインクルーシブな働き方について取り組みを行なっている企業について情報を収集し、学内の障害学生に情報提供を行う。
よくある間違い
- 労働者の権利に関する情報を本人に提供することで、過度な権利保障の要望などのトラブルが起こると考え、権利に関する情報を提供しない。
- 就労移行支援事業等の就労系障害福祉サービスがあることを本人に情報提供するのみで、具体的な利用の仕方やサービスの内容等について情報を収集・提供しない。
- インターンシップ等は障害学生支援担当部署の職務ではないと考え、インターンシップ等に関する情報収集等を全く行わない。
- その地域独自の就労支援の実情や取り組み、関係者のネットワークについての情報を収集せず、インターネット上の情報や、広報チラシなどから得た情報のみで、企業の障害者雇用状況や地域の就労移行に関わる各種社会資源の状況を判断する。
7-4 キャリア移行を支援する場作りを行う
障害学生支援担当部署およびその担当者は、障害学生の修学を支援することが中心的な役割である。しかし、キャリア移行での障害学生支援は十分ではない現状がある。
この現状を鑑みると、障害学生支援に関連する知識や経験を、キャリア移行を支える学内体制や地域連携の場作りに生かすことには、大きな意義がある。また、障害学生の卒後の活躍のため、大学が主体となって、産官学福が連携して協議できる場を生み出すことが期待される。
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7-4-1学内のキャリア支援と障害学生支援の連携体制を構築する
[意図]
学内のキャリア支援を担当する部署と、障害学生支援を担当する部署が、学内で連携できるよう、働きかけをおこなう。障害学生支援に関する情報をキャリア支援担当者に共有したり、イベント等の共同開催や、具体的なケースに共同で取り組むことを通じて、連携して支援に関わる体制を構築する。
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7-4-2企業との懇談の場を持つ
[意図]
障害者雇用率制度等により、障害学生の採用に関心がある企業は少なくない。大学の障害学生支援の担当部署等は、大企業だけではなく、その地域に根差した企業(中小企業等)とも直接的な繋がりを持つ。障害学生支援の担当部署から働きかけて、企業との懇談の場を持つことには双方にとって意義がある。
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7-4-3地域連携の取り組みに参加または企画する
[意図]
障害学生のキャリア移行を支援する上で、積極的に産官学福が集う地域連携の取り組みに参加したり、または取り組みを企画したりして、地域連携を進めていくことが重要である。また、全国規模(例:AHEAD JAPAN、PHED、HEAP)および広域(例:北陸、東海、九州・沖縄等)のネットワークの存在にもアンテナを張っておき、参加して情報収集に努める。
よくある間違い
- 大学のキャリアサービス担当部署が、障害についての知見が十分でないことを知りつつも、キャリア関連業務・企業連携・地域連携の活動は、障害学生支援部署の業務範囲ではないと考え、関与しようとしない。
- 連携の場を作る際に、企業または大学からの一方向的な情報提供になり、双方向的な意見交換の場作りを行わない。
- 特定の企業の情報(障害者雇用の採用状況、社内の支援体制、障害のある労働者のキャリアパス、労働環境、業務内容等)だけを過度に一般化して、障害学生に助言を行う。
- 個人的には企業や学外機関と繋がるが、組織的な連携には発展させない。
7-5 就職と定着の支援を行う
障害学生のキャリアへの移行と定着の支援は、障害学生支援担当者の業務ではないと考えられがちである。しかし、障害学生のキャリア支援は、十分な蓄積があるとは言いがたいことから、大学が卒業後の障害学生とも関わりを保つことが期待される。
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7-5-1大学からキャリアへの移行における好事例を蓄積する
[意図]
支援事例について、好事例に当たるものを蓄積する。事例に関与した障害学生と企業等に十分な説明と個人情報保護の対策を行なった上で、学内外の関係者と情報共有できる工夫を行う。好事例の共有を通じて、支援体制や連携のあり方を検討する。
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7-5-2障害学生の就職後のフォローアップに関わる
[意図]
障害学生支援の担当者は、在学中の障害学生との関わりを通じて、特性や合理的配慮の必要性をはじめとした支援に資する多くの情報を有している。これらの情報は、就職後の定着支援に役立つことが多いため、障害学生本人や、企業、就労移行支援事業者等に、本人の同意を得た上で情報を共有する。
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7-5-3定着支援を行う福祉的な資源を活用する・連携する
[意図]
障害のある学生が卒業後に就職活動する場合や、就職後に生活支援サービスを要する場合、障害者職業センターやハローワーク(障害者専門窓口)、障害者就業・生活支援センター(通称:就ポツまたはナカポツ)を活用することで必要な支援を受けられる場合がある。障害学生支援部署の担当者は、これらの障害福祉サービスを障害のある学生が効果的に利用できるよう、本人の合意を得た上で在学中から障害福祉サービスの担当者と情報共有し、連携体制を整えるように努める。また、障害学生を主体とした連携となるよう、障害福祉サービスの担当者と本人の顔合わせの機会を設け、福祉サービスの概要や困った際の連絡手段を理解できるようにする。
よくある間違い
- 個人情報の保護に関する倫理的な検討・準備を行わず、企業や就労移行支援事業者等に特定の障害学生の情報提供を行う。
- 企業や支援機関の担当者と情報交換する際、本人がいると話しづらいという理由から、障害学生の主体性を軽視し、終始、本人不在の環境で打合せをする。
- 就労移行支援事業所等へ接続する際、障害学生のニーズに即した新たな接続先を開拓することなく、どの障害学生にも、大学がすでに連携している特定の事業所等を紹介する。
関連資料
- 就労移行に関する情報について:ACE
- キャリア移行の場づくりについて:富山大学
- キャリア移行の場づくりについて:筑波大学
- キャリア移行の場づくりについて:DO-ITJapan
- 就労支援・定着支援について
- 就労定着支援の詳細
- 厚生労働省:就労移行支援についてスライド
- 2019年度版就労移行に関するスタンダード
- 「CTのQI」を実現するために必要な資源・コストについて